胸が痛んでこそ恋

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「駅まで送ってもらって別れたけど…。 二次会に来なかった?」 サラリととぼけながらも、内心ヒヤヒヤ。 二人で消えたなんて絶対に後々追求されるから、あの日篠宮とは口裏を合わせておいた。 「来なかったんですよー。もー、自由だなー篠宮さんは!まぁ、最初からあんまり乗り気じゃなかったですもんね」 杏璃ちゃんは特に疑う事もなくて、ホッと胸を撫で下ろす。 普段からの、篠宮のチャランポランさが功を奏したようだ。 「須田さんが篠宮さんに何度か電話しても無視で、またアイツ女の所行ってるんだー、なんて怒ってました」 「そうなんだ」 ハハハ…なんて軽く笑いながらも、なんだか複雑な気持ちになった。 "また女の所"か……。 あの日、一緒にいたのは私なんだけれど、篠宮にしてみれば沢山いる女のひとりだったのかもしれない。 ……そうよ。 篠宮って、そんな男じゃない。 いちいちアイツの言動に惑わされるなんて、バカげてる。 心の中で悪態をつきながら、なんだかスッキリしない気持ちでオフィスの扉をくぐった。 挨拶をしながら自分の席へと向かうと、デスクに座っている聡君が顔を上げたから目が合った。 「おはようございます」 ……笑って言えた。 「おはよう」 少し眉を下げて、ホッとしたように微笑んだ聡君を見て、あの夜の感情が一気に流れて来る。 胸は、やっぱり痛んでる。 これが、本当の恋なんだ。 胸が痛んでこそ、恋といえる。 ………じゃあ、篠宮は?
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