4317人が本棚に入れています
本棚に追加
「駅まで送ってもらって別れたけど…。
二次会に来なかった?」
サラリととぼけながらも、内心ヒヤヒヤ。
二人で消えたなんて絶対に後々追求されるから、あの日篠宮とは口裏を合わせておいた。
「来なかったんですよー。もー、自由だなー篠宮さんは!まぁ、最初からあんまり乗り気じゃなかったですもんね」
杏璃ちゃんは特に疑う事もなくて、ホッと胸を撫で下ろす。
普段からの、篠宮のチャランポランさが功を奏したようだ。
「須田さんが篠宮さんに何度か電話しても無視で、またアイツ女の所行ってるんだー、なんて怒ってました」
「そうなんだ」
ハハハ…なんて軽く笑いながらも、なんだか複雑な気持ちになった。
"また女の所"か……。
あの日、一緒にいたのは私なんだけれど、篠宮にしてみれば沢山いる女のひとりだったのかもしれない。
……そうよ。
篠宮って、そんな男じゃない。
いちいちアイツの言動に惑わされるなんて、バカげてる。
心の中で悪態をつきながら、なんだかスッキリしない気持ちでオフィスの扉をくぐった。
挨拶をしながら自分の席へと向かうと、デスクに座っている聡君が顔を上げたから目が合った。
「おはようございます」
……笑って言えた。
「おはよう」
少し眉を下げて、ホッとしたように微笑んだ聡君を見て、あの夜の感情が一気に流れて来る。
胸は、やっぱり痛んでる。
これが、本当の恋なんだ。
胸が痛んでこそ、恋といえる。
………じゃあ、篠宮は?
最初のコメントを投稿しよう!