胸が痛んでこそ恋

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「誰でもいいわけじゃなかった…」 いつの間にか篠宮の存在が近くなって、いつの間にか甘えられるようになって。 前に関谷さんに言われた「弱さを見せると相手との壁がひとつ無くなる」という言葉が身に染みる。 「篠宮かー」 「また言ってる」 「ねぇ、篠宮ってさ、誰と付き合ってたっけ?社内で誰かいた?」 「今まで篠宮に興味なさすぎて、知らない…」 「私も」 そこまで言うと文香が笑う。 「本当、人生って不思議だよね。予測不可能」 本当にね。 たった1人と出会っただけで、人生って良くも悪くも大きく変わってしまうと思う。 私と篠宮がこんな関係になるのを、誰が想像しただろうか。 「私、どうしたらいいんだろうね」 「ごめん、私もよく分かんない!」 「文香ーっ!」 予想外の文香の答えに、フォークを落としそうになる。 「篠宮はオススメできないと最初は思ったけどさ」 「そこはハッキリ言うね」 「でも菜月が居心地がいいなんて、意外だなぁと思って」 ナプキンで口元を拭いた文香は「ごちそうさま」と小さく手を合わす。 「樋口さんの時は"感情を出さないサイボーグみたいになった"って言ってた菜月が、素直でいられるっていう点では、私は嬉しいよ」 文香の言葉に、なんだか胸がじんと熱くなる。
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