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「きっとさ、菜月の気持ちがハッキリする時が来るよ」
文香が穏やかに笑う。
「そう…かな」
「踏み込めない理由は、篠宮だからでしょ?」
ドキン、と胸が鳴る。
「女の噂は絶えないし、いや、噂どころか自他共に認めてるし、何を考えてるのか分からない。不安要素だらけ」
「………」
「だからさ、菜月もちゃんと相手を見て、自分の気持ちも見つめたらいいと思うよ」
そう…。
今日もそうだった。
篠宮が本気なのか、揶揄ってるのか分からない。
私をどう見てるのかなんて、分からない。
「でさ。もし自分の気持ちがハッキリ分かったら、素直に従って欲しい。
誰に何を言われようが、篠宮の事が好きなら、それでいいと思うし」
文香は両肘をテーブルに置くように腕を組んだまま、前のめりになる。
「ただ、よく相手を見なさいよ」
じっと見つめられ、念を押される。
「はい」
「よろしい」
二人でクスクスと笑った。
文香の言っている事はよく分かる。
もし私が逆の立場だったら「篠宮なんてやめておけ」と、今までなら言ってたと思う。
だけど今、彼のことを"良い所もいっぱいあるのに"と思っている私は、すでに篠宮の仕掛けた甘い罠に溺れかけているのかもしれない。
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