胸が痛んでこそ恋

17/20
前へ
/283ページ
次へ
やっぱり翻弄されているのなんて私1人。 あの夜の事も、篠宮の事も気にして損した! カツカツと歩くヒールの音が、怒りのせいで心なしか大きく聞こえる。 「壱哉君って、彼女いるんでしょうかね?職場の方とお付き合いしてるとか、聞いた事あります?」 一番端を歩く有村さんが、私と杏璃ちゃんの方を向いた。 "無関係"ではない私はギクッとしてしまい、答える事に躊躇ってしまったが、杏璃ちゃんは「いや、ないですよー」とペラペラ話している。 「なんだか沢山遊んでるって聞くし…」 「あー…アハハ…」 杏璃ちゃんも「そうですよ」と言いたい所だろうけど、そこはどこまで言っていいのか躊躇ったのだろう。 苦笑いしながら、言葉を濁す。 「まぁ、だけど……。 遊んでいてもいいんです! 会っていれば、振り向いてもらえますよね?!」 有村さんは、自分に自信があるんだろうな。 篠宮を振り向かせるだけの自信もあれば、篠宮を手に入れたいという気持ちも認めてる。 「好きなんですね」 思わずポロリと呟いてしまった後、しまった!と口を塞ぎたくなってしまった。 聞きたくない言葉が耳に入ってくる事は、安易に想像出来るのに。 「はい!もう見た目もドストライクだし、 面白いし、優しいし、大好きなんですよー」 ほらね。"大好き"って。 カッコよくて、面白くて、優しいんだって。 サラッと出た言葉に、どれほどの気持ちが入っているのだろう。 私には言えないその言葉が、また気持ちをざわつかせる。
/283ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4317人が本棚に入れています
本棚に追加