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「壱哉くん!」
隣の有村さんが、可愛い声を更に1オクターブ上げて手を振ったから、合っていた視線が有村さんの方へと移される。
嬉しいを全身で表現してる有村さんは、かわいくて素直で…。
なんとも言えない気持ちが胸の中に燻る。
「久しぶり」
「ごめんね、時間空けてもらっちゃって」
歩いて来た篠宮が、有村さんを見て優しく微笑む。
その顔を見て、更に胸が締め付けられた。
私にもいつも、こういう顔で笑ってる。
誰にでもそうなんだよね。
分かってたから、私は見たくなかったんだ。
自分の存在なんて、篠宮にとってはその他大勢と同じなんだと、認識せずにはいられなくなるから。
言えない気持ちが渦を巻きながらも、ただ何もできずに2人を見つめていると、篠宮がこっちを向いた。
「ありがと、ごめんな」
「いえ」
ニコッと笑った。
傷ついてる顔なんて絶対に見せたくない。
「それでは、私達はここで失礼します」
「連れて来て頂いてすみません!
お忙しい所、ありがとうございました」
有村さんがペコリと頭を下げる。
はじけるような笑顔の有村さんは、これから篠宮に何を伝えるのだろう。
杏璃ちゃんは篠宮にも挨拶してたけど、私は篠宮の方を見なかった。
見れなかった。
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