胸が痛んでこそ恋

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「篠宮さん、有村さんとつき合うのかな…」 オフィスに戻りながら、杏璃ちゃんが呟く。 「どうだろうね」 「有村さんのウィンスタって、美容はもちろん、プライベートも投稿してるから、毎日チェックしよーっと!」 杏璃ちゃんが「もし何か篠宮さんの影があったら報告しますね」なんて言うのを、ハハッと愛想笑いをして流した。 ………傷ついてるのは、ちょっと面白くないだけ。 さっきも思ったように、私は思い上がっていたんだ。 いつも助けてくれる篠宮は、私の事を少し特別に思っているんじゃないかって。 そうだったらいいなって。 たかだかキスしたくらいで、バカじゃないの? そういう男って分かってたじゃない。 文香にも言われたじゃん。 相手を良く見ろって。 私は何を錯覚していたんだろう。 「どうだった?」 オフィスに戻ると、聡君に声を掛けられた。 「順調に話が進みました。細かい所までアイデアを出してくれて。あ、それで少し変更なんですが…」 聡君に資料を見せながら、変更箇所を伝えると「あぁ、そっちの方がいいね」と笑う。 そんな彼を見上げながら思う。 やっぱりまだ胸は痛んでる。 だけど日が経つにつれ、痛みは鈍くなってきたように思える。 胸が痛むのが恋だとすれば、篠宮への気持ちって……。 ──踏み込めない理由は、篠宮だからでしょ? 文香の言葉が今の私には突き刺さるのに、胸の痛みを見ないふりをした。 私は……傷つくのが分かってる。 分かってるから、篠宮への気持ちなんて認めたくない。
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