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「そういえば、今日の10年目研修来てなかったね。急な対応あったの?」
マーケティング部に所属する、大学からの同級生・文香は、牡蠣のアヒージョを食べながら素朴な疑問をぶつける。
仕事帰り、文香を急遽誘って、いつものダイニングバーに来た。
ここは料理が美味しいのはもちろん、ワインの種類が豊富かつ、ボトルキープが出来る所が気に入っている。
「ごめんね……それが……」
いくつかある研修日程を文香と合わせたのに、申し訳ない事をしてしまった。
聡君と江名を見るのが辛すぎて、現実逃避してしまった今日の出来事を話す。
「あのデリカシーのないバカップル、なんとかなんないのかね」
文香は毒を吐きながら、溜息をつく。
こんな嫌な事があった日は、唯一胸の内を話せる文香に気持ちを聞いてもらいたかった。
溜め込んでるばかりじゃ、毒が体中に回っていくみたいだから。
「席を外したら、気にしてるみたいでさ。逃げたと思われるのも嫌で、今までずっと江名が来てもオフィスで仕事してたんだけど……。今日は我慢の限界でトイレに逃げたら、マーケの子達が……」
「うちの部署?!誰?何言われたの?!」
ヒートアップする文香に、トイレで聞こえてきた"世間の目"を伝える。
「なるほどね…。トイレで話す時は使用中の扉がないか確認しなくちゃね…」
「ほんとだよ!!教育しといてよー」
わーん、と両手で顔を覆う私。
思い出しただけで、嫌な気持ちが悶々と広がる。
「しかもね、溜まりに溜まったストレスを屋上で叫んだら…」
「まだ何かあるの?!」
「まさかの篠宮に見られて……」
「ええっ?!篠宮?」
「"クールビューティーな及川さんにそんな一面がね〜"なんて言って、弱み握られちゃって。更に最悪」
「ぶっ!さすが篠宮!」
文香が吹き出したから、ジトッと睨むと「ごめん、ごめん」と軽くあしらわれた。
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