4317人が本棚に入れています
本棚に追加
「何やってんの、アンタ」
背後から声を掛けると、分かりやすく表情を歪める篠宮。
「げ、及川」
「ここ禁煙でしょ？！喫煙室行きなよ！」
ジッと携帯灰皿にタバコを押し付け火を消すと、ヘラッと笑う。
「喫煙室って面倒くさいんだよな。聞いてもない自慢話してくるヤツとか、時には説教してくるおじさんとか。窮屈」
「だからって爽快感求めてここでタバコ吸っちゃダメでしょ」
篠宮は「黙っててね、なっちゃん」なんて、反省の色無くカワイ子ぶって私の名前を呼ぶ。
そうか……。
コイツがここに来てたのって、タバコを吸う為だったんだ。
何で来てるんだろう？と思ってたけど、そのオチはこれか…。
呆れながらも篠宮の方を見ると「ん？」と、眉を上げる。
「口止め料が発生しますけど」
「おい、真似すんな」
かつての篠宮と同じ事を言うと、フッと笑われた。
あぁ…。
私、怒ってたんだけど。
いつもの私達の心地いい空気に、勝手に頬が緩んでしまう。
「何ニヤニヤしてんだよ」
「え…？
し、篠宮の弱みを握るなんて楽しすぎて」
「人を脅すなんてロクでもない人間のする事だぞ」
「よくもしゃあしゃあと言えるわね」
しょうもない言い合いをしながらも、篠宮はちっとも悔しそうなんかじゃなくて、楽しそうに笑っている。
そんな顔しないでよ。
ズルい男。
最初のコメントを投稿しよう！