崩れる

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「すっごい口止め料考えとくから」 そんな余裕綽々の篠宮をちょっと困らせたくて、満面の笑みで宣言すると鼻で笑われた。 「お手柔らかにお願いします」 「どうかなー」 「ボーナスが出てからにしてね」 ちゃっかり頼み込む篠宮の発言がおかしくて、アハハと大きな口を開けて笑うと、篠宮もフッと笑う。 やっぱり…。 こうしてただ穏やかに笑っていられる関係が一番楽だよね。 若い頃なら篠宮みたいな危険なタイプでも、感情のままに飛び込めたかもしれないけど、私も30歳を過ぎて安定を求めるようになった。 刺激なんて求めてないし、疲れる恋愛なんてしたくないし、傷つくのも目に見えてるし、仕事もやりづらくなるし……。 この胸の痛みが"リスク"だと思えてしまう。 そんな私に、有村さんという存在は現実を見せてくれたと思う。 篠宮を好きになるという事は、こういう不安はついて回るのだと。 流されそうになっていたけれど、そんな煩わしい気持ちなんて、私はいらない。 「そういえばさっき、食堂にいたらアンタの話題が聞こえてきたよ」 「俺がカッコイイって?」 「言うと思った」 呑気な篠宮は、クッと口角を上げる。 「何だよ?」 「有村さんとイチャイチャしてたって」 うん。 笑って言える。 口に出すとツキンと胸が痛むけれど、押し殺していれば、次第に無くなっていくものだと私は知ってる。 「噂になってるね、有村さんと」 明るかった篠宮の表情からは笑顔が消えて「そーなんだ」と、興味なさげに視線を逸らされた。 バカばっかり言ってる篠宮が意外にまでそっけなくて、またそれが心をざわつかせる。
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