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「それって口止め料?」
「それでもいいけど」
「え、ヤダ」
「お前、何を企んでるんだよ」
ケタケタと篠宮が笑う。
"口止め料"や"失恋相談"が無くなって、篠宮と飲みに行く理由が無くなったような気がしてたけど、普通に誘ってくれるんだ。
本音としては嬉しいんだけど、篠宮に深入りしない方いいに決まってる。
またお酒を飲んで、甘えちゃったら…。
取り返しがつかない。
いや、だけど一方的に意識してるのは私で、ただの同僚のお誘いなのに断るのもおかしいよね?
どうしようかと返事を渋っていると、篠宮がじっと私を見る。
「都合悪い?」
「いや…」
「じゃあ、いつが空いてる?」
「まぁ…特に予定はない…」
あぁ、また篠宮にペースに乗せられてしまう…!
だめよ、ちゃんと断らないと…っ!
「ふーん。じゃあ今日」
「えっ!!」
予想外の提案に思わず声が漏れると、篠宮がニッと笑う。
「急だね」
「どうせ暇なんだろ」
「うるさいわ!」
意地悪な顔をして笑う篠宮を、口を尖らせたまま見上げる。
「お前に考える暇を与えたらロクな事考えないもんなー」
「え…?どういう事?」
「別に」
フンフーンと鼻歌交じりにご機嫌な様子の篠宮は、腕時計に視線を落とす。
「じゃあ、場所は後で連絡する」
「うん…」
「楽しみだねー、なっちゃん」
バイバーイと飄々と去って行く篠宮の背中を見ながら、一体私は何がしたいんだろうと肩を落とした。
……流されてしまった。
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