崩れる

10/21
前へ
/283ページ
次へ
「……なんとなく、外の空気を吸いたくて」 そんな気持ちは胸に隠したまま、またワインを一口飲んだ。 「紫外線のシャワーを浴びるのに勇者だな」 「紫外線対策はいつでもバッチリです。 というか、なんでその時に聞かなかったのよ」 「タバコを見られた事に動揺してまして」 「中学生か」 いつものように篠宮がバカな事を言うから、つい声を出して笑ってしまう。 あぁ、やっぱりこうだよね。 私の選択は、間違っていない。 こうやって些細な事で笑っていられるような、楽しいだけの関係でいたいと思う。 2人でしょうもない話をしながら、お酒を飲んで、笑って。 篠宮と過ごすこの時間は、いつだって悪くないと思っていた。 「タバコは百害あって一利なしだよ」 「アハハ、真面目な及川さんらしい発言」 「心配してるのに!」 「いーの、いーの。俺、今死んでも心残りないから。全力で生きてますんで」 そういう問題ではないんだけど、スマートに見えてがむしゃらな篠宮らしいなー、なんて横顔を見ていると、「あっ」と言って宙を見る。 「やっぱり、嘘」 「何が?」 「一つ心残りがあるから、健康に気をつけないとね」 ニコッと、また無駄に可愛い笑顔でこっちを見る。 「そうだよ!ファッションブランドに戻りたいんでしょ!」 「え、あぁ…」 「新ブランドを作るって噂あるよね! 何か聞いてないの?」 「……お前って、意外と鈍感だよな」 「は?」 篠宮の夢を応援しているのに、何故か馬鹿にされたから目を細めると、篠宮がクッと笑う。
/283ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4317人が本棚に入れています
本棚に追加