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「まぁ、菜月はさ。
"美人で仕事もできて、カッコいい彼氏もいて完璧"って羨望の的だからね」
「彼氏がいなくなったら、哀れな人扱いだよ…」
「良くも悪くも目立つって事は、人に勝手な事を言われるよね」
文香が「まぁ飲みな」と言って、グラスにワインを注ぐ。
「樋口さんとは別れたけど、菜月が何でも卒無くこなすのは事実なんだからさ。"クールビューティーなカッコイイ及川さん"は、変わらないでしょ?」
チビチビとワインに口をつける。
「……それは違うよ。
私に対するイメージと違ったり、弱い所を見せたりしたら、幻滅されるんじゃないか、仕事が出来なかったらダメな人間だと思われるんじゃないかって、気を張ってるだけだもん」
そんな外面のいい私を好きになってくれた聡君は、私には勿体無い人だった。
オシャレで、大人の色気があって、優しくて。
部下の話はちゃんと聞いてくれるし、かと言って自分の思いを言わないわけじゃなく、ここぞという時には「こうしていこう」とみんなを引っ張って。
決断力もあるし、ユーモアもあって和ませてくれるし、上司としても、人としても心から尊敬していた。
好きな人には、よく思われたい。
そんな聡君に釣り合うように。
仕事でも失敗しないように、かっこ悪い所を見せないように、嫌われないように。
私は、自分を良く見せようと必死で保ってきた。
「別れた時も本当は泣きたかったけど、泣けなかったの。そんな醜態晒したくなくて。
"お幸せに"なんて言って、泣き言ひとつ言わずに去ってきたのに、このザマよ……」
それはそれは、見事な引き際だったと思う。
──江名さんの事を好きになってしまったんだ。
あの時、言葉も出ないくらいショックだったけど、そう思われないように振る舞う事が、捨てられた私のプライドだった。
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