崩れる

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彼女が「壱哉君」と呼ぶだけで、ザワッと心に影が落とされるのが分かる。 有村さんはニコニコしながら駆け寄って来たけれど、私に気づいて一瞬顔が強張るも、また可愛い笑顔を作る。 「及川さん!こんばんは!」 「こんばんは。先日はありがとうございました」 ううっ…止めてよ! 気まずすぎるじゃない!! 仮にも、有村さんの気持ちを知ってるんだから、今後の仕事がやりづらくなっちゃう! 「お二人は…今日はお仕事帰りですか?」 「そうなんです。ちょっと今日は篠宮と仕事の件で話がありまして…」 「え、本当かなぁ〜? GENICとNatureで関わる事なんてないじゃん!怪しい、怪しすぎる!」 黙れ須田ーーーっ!!空気読め! 引き攣った笑顔のまま"余計な事言うな!"と圧を送るも、ニヤニヤしている須田君には全く届かない。 他にも一緒にいるのはフィールの若手男性社員で、みんな何か言いたげな視線を送りながらも、先輩の私達に挨拶をする。 「ま、須田には言えない事なんだよ」 「お前と長い付き合いなんだぞ。 俺にそんな嘘は通用しません」 「本当だよ。 …新ブランドの件だから。誰にも言うなよ」 え? コソッと須田君に囁く篠宮は、すごく感じで言う。 須田君は、何やら思う事があったようで「あぁ〜」と納得すると"分かったよ"とばかりにウインクをする。 何なん、この人…。 変わってるとずっと思ってたけど、やっぱり変な人だわ…。 須田君に気を取られてばかりいたけれど、有村さんのじとっとした視線を感じて、ハッとする。 「す、須田君達は、今日は何の集まりなの?」 「あぁ!それが偶然! 後輩の井戸田が有村さんと同級生だった事が判明して!親睦を深めようと集まる事にしたんだよね」 「へー…」 お友達が多い事で…。 どこぞの課の井戸田君や、その他の男性社員達も、有村さんとお近づきになって、あわよくば…という下心に溢れている気がする。 全く、男ってヤツは。
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