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いつだって、始まりがあれば終わりがある。
どんな些細な事だって同じだ。
しばらく2人で飲んだ後、店を出る事にした。
もう、2人で過ごす時間は金輪際おしまい。
湿気を含んだ空気がまとわりついて来て、季節が移り変わる事を無言で伝える。
「本当に帰る?」
「うん。有村さんと仕事で関わるし、一線を引きたいし」
「あー、確かに。お酒飲んだらお前の本性がバレるかもしれないしね」
隣を歩く篠宮がいつものように揶揄う。
私は何でもない振りをして「うるさい」って言い返す。
「……飲みすぎないようにね」
「俺が強いの知ってるだろ?」
ニヤッと得意気に笑う篠宮は、何にも気づかない。
こんな風にしか伝える事が出来なくて、もどかしくて切ないのに、見慣れた駅は視線の向こうにアッサリと姿を現す。
もうすぐ篠宮は有村さんの所へ行ってしまう。
そして………。
そのまま一緒に帰るのだろうか。
想像するだけで、ズキンと大きく胸が痛んだ。
「ここでいい?」
駅前で立ち止まった篠宮が、ついにタイムリミットが来た事を告げる。
コクンと頷いたけど、私はうまく笑えてる?
大丈夫だと思っていたのに。
平気な振りをするのは得意なのに。
胸が痛くて痛くて、息苦しい。
「ちゃんと帰れよ」
「あんたこそ」
篠宮がハハッと、また子供みたいに笑う。
止めてよ。
これから、他の女の所に行くくせに。
私の事なんて、何とも思ってないくせに。
「じゃあね」
──嫌だ。行かないで。
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