崩れる

15/21
前へ
/283ページ
次へ
いつだって、始まりがあれば終わりがある。 どんな些細な事だって同じだ。 しばらく2人で飲んだ後、店を出る事にした。 もう、2人で過ごす時間は金輪際おしまい。 湿気を含んだ空気がまとわりついて来て、季節が移り変わる事を無言で伝える。 「本当に帰る?」 「うん。有村さんと仕事で関わるし、一線を引きたいし」 「あー、確かに。お酒飲んだらお前の本性がバレるかもしれないしね」 隣を歩く篠宮がいつものように揶揄う。 私は何でもない振りをして「うるさい」って言い返す。 「……飲みすぎないようにね」 「俺が強いの知ってるだろ?」 ニヤッと得意気に笑う篠宮は、何にも気づかない。 こんな風にしか伝える事が出来なくて、もどかしくて切ないのに、見慣れた駅は視線の向こうにアッサリと姿を現す。 もうすぐ篠宮は有村さんの所へ行ってしまう。 そして………。 そのまま一緒に帰るのだろうか。 想像するだけで、ズキンと大きく胸が痛んだ。 「ここでいい?」 駅前で立ち止まった篠宮が、ついにタイムリミットが来た事を告げる。 コクンと頷いたけど、私はうまく笑えてる? 大丈夫だと思っていたのに。 平気な振りをするのは得意なのに。 胸が痛くて痛くて、息苦しい。 「ちゃんと帰れよ」 「あんたこそ」 篠宮がハハッと、また子供みたいに笑う。 止めてよ。 これから、他の女の所に行くくせに。 私の事なんて、何とも思ってないくせに。 「じゃあね」 ──嫌だ。行かないで。
/283ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4316人が本棚に入れています
本棚に追加