崩れる

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去ろうとした篠宮のシャツの袖を、思わず掴んでしまった。 驚いた顔をした篠宮と、目が合う。 「……どうした?」 有村さんの所へ行かないで──。 なんて……。 言えないよ、篠宮。 だけど、引き止めてしまった。 ここで間違えたら… 一線を越えてしまったら、私達はただの同僚には戻れない。 ただ笑って、楽しいだけの関係ではいられなくなる。 「何?もっと俺と一緒にいたいとか?」 返事をしない私の顔を覗き込むようにして、いつものように茶化して笑う。 「……うん」 「え?」 篠宮が笑顔のまま、固まる。 もっとお酒を飲めば良かった。 そしたら、また酔っ払ったって誤魔化せたのに。 だけど、もう遅い。 突き動かされる衝動に、勝てない。 「……もう少し、一緒にいてくれない?」 恐る恐る発した声は、震えていたかもしれない。 目の前の篠宮から、笑顔が消える。 その困惑したかのような表情が、ズキンと胸を抉る。 篠宮は、いつものように冗談で言っただけなのに、不安で押しつぶされそうな私はつい「帰りたくない」と言ってしまった。 真に受けてしまった事が急に恥ずかしくなって、臆病な私は咄嗟に予防線を張ってしまう。
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