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「まだ夜は、1人で過ごすのが寂しいんだよね」
アハハと自嘲気味に笑う。
本音を隠した笑い声は、すぐに喧騒の中へと消えた。
私は……
弱くてズルい。
もしうまくいかなくても、ダメージを最小限に留める方法を模索してる。
「……失恋した人は大変ですね」
「うるさいなー」
篠宮はいつもみたいに憎まれ口を言ったけれど、いつもみたいに笑わなかった。
まるで、綱渡り。
ユラユラ揺れる自分の気持ちと、相手の気持ちを探りながら、なんとかバランス取ろうと歩いているよう。
一歩間違えば、落ちてしまうのが分かってるから。
──ピリリリ。
そんな緊張感を壊すかのように、篠宮の携帯が鳴る。
ポケットから取り出すも、ディスプレイを確認するなり着信音を切ってポケットに戻した。
「出なくていいの?」
「うん」
「……有村さん?」
どうしようもないくらい大きな不安が、また私を襲う。
「うん。まぁ…どうせ"早くこい"って電話だろ」
何て事ないように言ったけど、私の心はキリキリとすり減っていく。
「どうする?もう一軒飲みに行く?」
「……行かない」
篠宮の提案に、首を横に振る。
他の女の所になんて、行かないでよ。
私と一緒にいてよ。
理性なんかより、リスクなんかより、止められない気持ちがあるの。
好きだから───。
「行かないって…。
じゃあ、どうするんだよ?」
篠宮が困った顔をして私を見る。
傷つくのは怖いくせに、篠宮を独り占めしたい。
言えない気持ちを訴えるように、真っ直ぐに見つめた。
「うちに来る?」
言ってしまった。
もう、後戻りは出来ない。
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