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「入って。ちょっと散らかってるけど…」
張り詰めた空気を和まそうと、笑顔を無理矢理作り篠宮を中へと招き入れると、いきなり背後から抱きしめられた。
パタン…と、ゆっくりと玄関の扉が閉まる。
ドクン、ドクンと心臓は破裂しそうなくらい脈打ち、篠宮の硬い腕の感触に、息が止まりそうになる。
「……及川」
耳元で感じるのは、篠宮の息づかいとくぐもった声。
ぞくりと体中をかけ巡る衝動に、手に持っていたバッグがバサリと床に落ちた。
声が……出ない。
愛しいのか、切ないのか、続く言葉を聞くのが怖いからなのか。
胸が苦しすぎて声にならない。
沈黙が、とてつもなく長く感じた。
「……意味、分かってる?」
私の首元に顔を埋めるようにして、篠宮が低い声で囁く。
もう、無理だと思った。
抱きしめられる腕にギュッと力がこもったけれど、その腕を解くようにして、体を篠宮の方へ向けた。
分かってるよ。
私が望んだの。
この時間だけは、私の事だけを見てよ。
お互いの熱を帯びた視線が絡まった瞬間、
トンッと壁に押し付けられて、唇を塞がれた。
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