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「ねぇ。菜月はさ、樋口さんと戻りたいんだよね?」
文香が真剣な顔をして私を見た。
「戻りたい……」
こんなに残酷で酷い仕打ちをされたのに。
どうして愛という気持ちを捨てる事が出来ないのだろう。
毎日聡君を見ては、気持ちがまだ彼にあると痛感させられ、江名を見ては嫉妬でグチャグチャになって。
それなのに………。
それでもまた聡君と一緒にいたいと思ってしまう。
聡君以上の人なんていない。
「そっか。本当に好きだったもんね。
樋口さんの事」
心から馬鹿な女だと思う。
私がもっともなりたくなかった、未練タラタラの惨めな女。
「文香ーっ。もう自分が嫌だよ。仕事も行きたくないよ……辛い」
またメソメソと突っ伏す私の頭に、よしよしと文香は手を置いた。
「よし、明日は休みだしさ!今日はとことん飲もう!」
「ううっ、くそーっ!飲んでやるーっ!」
「いつものように、暴言吐きまくっていいよ」
文香がニヤリと笑ってワインボトルを持つ。
「前から言ってるけど、たしかに見た目と中身のギャップがある菜月だけど、私は幻滅なんかしてないでしょ?」
「私も前から言ってるけど、それは文香がレアキャラなのよ」
お互いフフッと笑うと、少し残っていたワインを飲み干した。
「私は友達として、菜月が飾らずにいられる人と幸せになって欲しいと思うよ」
空になったグラスに、コポコポと小気味良い音を放ちながら、ワインが注がれる。
文香の言葉に、じんと胸が熱くなる。
だけど同時に、文香は私の気持ちを否定しないけど、本当は新しい恋をして欲しいんだろうと思った。
私も、そうできたら楽だと思う。
だけど、どうしようもない。
グラスの中で深い赤紫色の液体はユラユラ揺れて、その揺らぐ様はまるで私の心のように映った。
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