私だけを見て

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「なんで篠宮なのかって言われると、分かんないけれど…。 でも、惹かれるって理屈じゃないんだろうね」 聡君と別れた夜も、こんな事思ったっけ…。 篠宮といるのは、心地がいい。 文香が「好きな人には特に甘えたいよね」って笑うから、つい篠宮の事を話したくなってしまう。 「あとね、篠宮って優しいんだよ? 人の事をよく見てるから、相手が何を望んでるか瞬時に分かるんだろうね」 「確かにね。アイツ抜け目ないよね。 仕事もそつ無くこなして結果を出すというか…」 「本当は努力家なんだよ? 可愛い所もあるし、イケメンだし…」 「最後の方ただの惚気じゃないか」 文香にツッコまれて、また顔を見合わせて笑う。 本当はね、愛しい気持ちで溢れてる。 女なら、好きな人と結ばれるのはどんな事情があろうと嬉しい事だよね。 ワインを一口飲んでグラスを置くと、文香もグラスを置いた。 「菜月。 あんたさぁ、今まで告白した事あった?」 告白…? 突然の質問に、視線が思わず宙に浮く。 いや、ある…あれ? ……あったっけ? 何となくお互い好意を持ってるのが分かって、告白されて、自然な流れで付き合う事が多かった気がする…。 「そう言われてみれば無いかも…」 「これだから美人は!」 「そ、そうじゃなくて! 好きだってお互い何となく分かるじゃない! そこから付き合う形になって、ごく一般的な自然な形で…」 「はいはい」 私の弁解は、文香に興味なさげにぶった切られた。 「だからさ、今までは失敗しない形があって無意識に安心していた菜月だけど、今回は違うって事だよね?」 ……そう。 好きだから伝えたいんだけど、うまくいかなかった時の事ばかりを考えて、誤魔化してしまった。 確信が欲しいのも、傷つくのが怖いから。
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