私だけを見て

14/24
前へ
/283ページ
次へ
「あぁ、恥ずかしい…。 あの掴み所のない男に言えるかな…」 「逆でしょ」 「え?」 文香がフフッと笑う。 「篠宮だから言えるでしょ?」 あ……。 そっか……そうだよね。 素直な気持ちを、ありのまま出せたのは篠宮だった。 もう、かっこ悪い私も散々曝け出してるし。今更じゃない。 「木曜日のデート。 いい記念日にしなよ」 文香がそう言って、グラスを私の方へと差し出す。 怖くて不安だけど、勇気を出したい。 「好きって、言ってくる」 少し弱々しい声で、私も文香の方へグラスを差し出す。 この恋が、うまくいきますように。 そんな願いを込めて、カチンとグラスを合わせた。 「あと私が出来るのは、篠宮がクズじゃない事を祈るのみだな!」 「ちょっと!決意がブレるような事言わないでー!!」 文香に揶揄われながらも、柔らかい空気が私達を包む。 ねぇ、篠宮。 ここで初めてアンタに心を見せた時みたいに、ちゃんとありのままで伝えるから。 篠宮も誤魔化さないでね。 もう、どのみち元の同僚という関係には戻れないのならば… 私は篠宮の恋人になりたい。
/283ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4318人が本棚に入れています
本棚に追加