私だけを見て

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いや、別に今でも気分のいいものではない。 だけど前なら心が打ちのめされてグチャグチャだったのに、今はもう"聡君は戻ってこない過去の人"だと受け入れてるというか。 当たり前すぎて、毎日同じように見える日常。 だけど、やっぱり変わっていくものなのだ。 それが嬉しいような、悲しいような。 取り残された私は、自動販売機の前で立ち止まったまま、時の儚さを感じていた。 「なんだ、泣いてないじゃん」 ──え? 休憩室の自動ドアが開く音がして振り返ると、篠宮が入ってきた。 ドキン、と一気に心臓の音が騒がしくなる。 「篠宮…」 「お前と入れ違いで、樋口さんと江名ちゃんが出て行くのが見えたから」 「あー…。タイミング悪いよね、私」 「なっちゃんの泣き顔が見られるかと思って来たのに」 「は?」 意地悪を言う篠宮をジロリと睨むと「ウソウソ」と笑われた。 ……分かってるよ。あんたがそんな事を思ってない事くらい。 心配して来てくれたんでしょ? 私がまだ、失恋を引きずってると思ってるから。 "聡君を引きずってるなんて嘘"だと言いたいけれど、つい次の反応をあれこれ想像してしまい言い淀んでいると、そんな事を知らない篠宮は私に視線を落として笑う。 「泣いてないご褒美にご馳走してあげますねー。何買うの?」 「え?じゃあ…コーヒー」 「何で苦いの飲めないくせに頼むんだよ」 「甘くすれば美味しいの!」 篠宮が「変なヤツ」と笑いながら、小銭を自販機に入れる。 いつもの私達の空気に、自然と顔が緩む。 そういえば、どうしてコーヒーは甘党だと知ってるんだろう。 昔、そんな話したっけ? まぁいいや。
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