私だけを見て

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近い!顔、近い!! 固まる私とは反対に、篠宮は口角を上げる。 たぶん、篠宮からはめちゃくちゃポーカーフェイスに見えてるだろう。 「いいワイン飲もうか」 「…うん」 篠宮はフッと笑って、傾けていた顔を戻すと、何事も無かったようにコーヒーを飲んでる。 1人ドキドキとしている私。 もう、本当に振り回される!! グイッとカフェオレを飲み干し、紙カップをゴミ箱へ捨てた。 「ごちそうさま」 「いーえ」 篠宮もコーヒーを飲み干し、ゴミ箱へ捨てる。 いつまでもここで油を売ってるわけにはいかないので、明日の段取りをしながら休憩室を出ようと歩いていると、ちょうど自動ドアが開いた。 「あー、お疲れ」 「うーっす」 すれ違いに入ってきたのは同期の長谷部君。 ニコリと笑って私も挨拶すると「あれ?珍しい組み合わせ」と長谷部君が私達を見て笑う。 何気ない言葉に、ついついギクッとなる。 「今日、19時30分だよな」 「遅れるなよ、篠宮」 「はいはい」 軽く篠宮と言葉を交して、長谷部君は「じゃーな」と手を上げる。 そうか。 この人達、昔から仲良かったよね。 「今日、何かあるの?」 「胡散臭い男の集まりです」 「何それ」 篠宮の返答に、プッと吹き出す。 しょうもない会話をしながらエレベーターに乗って、篠宮の部署があるフロアへと近づく度、名残惜しい気持ちも膨らんでいく。 まぁ、また明日会えるんだから! 心の中で自分を慰めていると、ポーンとエレベーターがフロアへ止まる音と共に、篠宮がコソッと耳元で囁いた。 「明日楽しみにしてるね。なっちゃん」 なっ!! ゆっくりと扉が開いて、社員がエレベーターに乗って来る。 篠宮は意地悪な顔でフッと笑うと、その甘い声に体を縛り付けられたように動けない私を置いて、飄々とエレベーターを降りて行った。
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