私だけを見て

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ちょ、ちょっと……っ!! 人に見られる所だったじゃない! 篠宮と入れ違いに入ってきた社員に「お疲れ様です」とニコッと会釈しながら、平常心を必死で保つ。 コソッと熱くなった頬を押さえながら、ゆっくりと閉じていく扉の隙間から見える篠宮の後ろ姿を見つめていた。 どうか、明日うまくいきますように──。 その背中に、願わずにはいられなかった。 「おかえりなさーい! 菜月さん、明日のコンテンツ撮影の事なんですけど」 フロアに戻るなり、杏璃ちゃんが待ってました!とばかりに寄って来た。 「有村さんと会うの楽しみだなぁ!」 「…そうだね」 明日…、有村さんとまた会う事になる。 正直、気まずい。 だけど仕事だから、ちゃんとやらなきゃ。 GENICの商品を沢山の人に手に取ってもらう為に私達は日々切磋琢磨してるんだから、公私混同なんてしている場合ではない。 「あれから篠宮さんとどうなったんでしょうかねぇ?」 「さぁ…」 「ま、篠宮さんは来るもの拒まずなんだから、確実に関係はありと見てます!」 杏璃ちゃんの言葉に、胸がズキンと痛む。 そうだよね。 みんな、そう思ってるし、私だってそう思ってたと思う。 「杏璃ちゃん。 それで、明日の撮影の事って?」 「あ、そうでした!」 こうやって聞きたくない事なんて山ほど入ってくるだろうし、心が掻き乱される事くらい、ある程度覚悟してた。 また不安が大きくなるけれど、篠宮が私に向けた言葉や行動は、全部私をちゃんと思ってくれてた気がする。 そう思いたいだけなのかもしれないけど、今は信じたい。 あんなにチャランポランだけど、自分の気持ちを偽ってまで人と付き合ったりはしないし、嘘は言わないと思う。 ──明日、楽しみにしてるね。なっちゃん。 篠宮。 私の願いを受け止めてよ。
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