私だけを見て

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「───っ!」 驚きから声にもならず、思わず通話を切ってしまった。 手が……震える。 心臓がバクバクとものすごいスピードで脈打つ。 何、今の…? 篠宮に電話……したはずだよね? 震える手で発信履歴を確認する。 ちゃんと、篠宮に電話をしていた。 手から滑り落ちたスマホが、ガタンと床に転がる。 呆然としたまま、力が入らない。 浮かれていた自分が惨めになって、驚くくらいサーッと気持ちが引いていく。 これから起こるだろうと想像していた事が、全部バラバラと崩れ落ちていく。 ……何考えてたの、私は。 篠宮って……そんなヤツじゃない。 ──会いたくなって。 ハハ。笑える。 さっきの電話の女の人にも「会いたい」とか言って、一緒にいるんだよね。 あぁ、そう…。 バカみたい、私。 勘違いして、浮かれて、好きだって言おうとして。 私だけを見て欲しいなんて、どうかしてた。 ぐっと唇を噛み締めるけど、涙が溢れて、息が苦しい。 もう一度、電話をかける勇気なんてない。 一人うずくまって、やるせない夜を耐えるしかなかった。 篠宮は………私の元へは来なかった。
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