4320人が本棚に入れています
本棚に追加
「いいえ、まさか」
両手を振りながら、慌てて否定する。
口に出しながら、恋人ではないという事実が、また私を虚しくさせる。
「この間、仲良さそうに見えたので」
「篠宮も言ってましたけど、あれは仕事の打ち合わせで。ちなみに私達も同期なんですよ」
「そうなんですね…」
有村さんが、急にいつもと違う表情をする。
いつもニコニコしてるのに、笑顔は消えて、その目からは棘さえ感じる。
「私も壱哉君と一緒に食事に行ったりしてるんですけど、おつきあいしてるなら申し訳ないと思って」
私の反応を伺うように、じっと見られる。
そうなんだ…。
そんな事、一言も言わなかったな。
………言う義務も無いんだけど。
「違いますから」
顔には出さない、絶対に。
有村さんの言葉に傷ついても。
笑って否定すると、有村さんもいつものように表情を緩める。
「良かったぁ。この間お二人にお会いした時も、結局壱哉君来なかったし、何かあるのかと思って疑っちゃいました」
両手を合わせて「ごめんなさーい」なんて、可愛く謝られた。
ハハ…っと、乾いた笑いが出る。
もう、メンタルがボロボロだ。
昨日といい、今日といい、こうやって女の影がチラつく度に、私の心はぎゅうっと締めつけられて痛い。
最初のコメントを投稿しよう!