4320人が本棚に入れています
本棚に追加
早く撮影が始まって欲しい。
担当を変えれば良かった。
仕事に向き合う気持ちとして間違っている事は分かっているけど、有村さんとこれ以上話していると態度に出てしまいそう。
「メイク準備遅いですね。お待たせしてすみません。様子を見て来ますね」
「全然大丈夫ですよ!
及川さんと色々お話したいですし」
──ネガティブな感情には敏感なのにね。
有村さんに無垢な笑顔を向けられているはずなのに、篠宮の言葉が浮かんだ。
毒のような、一撃で致死量に達してしまうかのような、胸騒ぎを感じたから。
「昨日、及川さんから壱哉君に電話があったから、不安になってたんです」
─────え?
いつもより激しく、鼓動が鳴った。
嘘……。
まさか、昨日の電話の声って───。
「壱哉君に"会いたいから"って呼ばれて、一緒に飲んでたんですけど、すごく酔っ払っちゃって。
なんとか家に一緒に帰ったら、及川さんから着信があって…」
───もしもし?
電話の向こうから聞こえた、甘い声。
パリン、と心の中で何かが壊れた音がした。
最初のコメントを投稿しよう!