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「お待たせいたしました」
気が抜けたようにぼんやりしていると、ウエイターがワインを運んできた。
どうやら、お料理に合わせて赤と白のグラスワインを頼んでいるようで、まず用意されたのは乾杯用のスパークリングワインだった。
「色んなワインを飲みたい」なんて、前に一緒に居酒屋へ飲みに行った時に、軽い気持ちで話した事を思い出した。
篠宮の事だから、そんな小さな事を覚えていたんだろうと思うと、チクンと胸が痛んだ。
「…飲めるの?」
「いや、あんまり…」
「酔いすぎでしょ。何やってるのよ」
「日本酒がヤバくて…」
私……怒ってるの。
だけど私が頼んで、篠宮が用意してくれたこの場を壊す勇気もない。
「……高いワインなんでしょ?」
「口止め料ですから」
篠宮が私を見て笑う。
その顔に、また胸が痛くなる。
「かなり高くついちゃったね」
「今日は特別」
「ハハ、豪華すぎでしょ。
ありがたく、いただきます」
華奢なグラスの脚を少し持ち上げて御礼を言うと、篠宮が口角を上げた。
キラキラ輝く夜景と、シャンパンゴールドのワイン。
私の為に、こんなにきらびやかな時間を用意してくれたのに…。
その気持ちを素直に受け取れない事が、ものすごく悲しい。
込み上げてくるやるせなさを流し込むように、ワインを一口飲むと、喉がツンと痛かった。
「……今度、また埋め合わせする」
「いいよ。大丈夫」
篠宮の謝罪を、咄嗟に断ってしまった。
一瞬、気まずい空気が流れたから、ごまかすように笑うと、篠宮もぎこちなく笑った。
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