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静かに料理が運ばれてきて、わだかまりなど当然溶けないままだけど、この場を繕わなければと思った。
「美味しい」
まるで周りのカップルと同じように、楽しく会話して。
傷ついていない振りをして。
「GENICの新商品、ジュエルラインだっけ?」
「そう。グリッターシャドウがメイン。絶対売れると思う」
だけど疑念を抱えたままの時間は思った以上に苦痛で、篠宮の言葉なんて何も入ってこない。
「ハハ、すごい自信。コンセプトなんだっけ?」
「"特別な私"…」
時間が経てば経つほど、一緒にいるのが苦しい。
笑顔を作るのが、辛い。
今日は特別な日だったのに…。
こんな日になるなんて思ってもみなかった。
「……今日、有村さんの撮影だった」
「へぇ…」
「聞いてなかった?」
「うん」
篠宮は有村さんの名前を出しても、顔色ひとつ変えない。
私は、平気なんかじゃない。
無理だよ。
だって、篠宮の話が………
何もかも嘘に聞こえる。
「…篠宮」
「ん?」
カチャリ、とフォークとナイフを置いた。
「昨日、有村さんと一緒にいたから、うちに来なかったんでしょ?」
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