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「やだー、もう!違いますよ〜」
ふわりふわりと、オフィスに甘い声が漂う度に、私の心はひび割れる。
1番奥の課長席。
樋口聡と情報統括部のアイドル、江名みくるが、楽しそうに新システムのテストをしている。
「……さん。菜月さん!」
……は?
あまりにも乏しい表情で振り向いた私に、後輩の杏璃ちゃんが目を丸くしたから、我に返った。
いけない!
これじゃ、私が2人を気にしているのがバレちゃう!
「どうしたの?」
すぐさま完璧なスマイルを作って、返事をした。
「午前中に商品企画部と打ち合わせした、次のプロモーション計画案を作ってみたんですけど、見てもらえますか?」
「すごい。仕事が早いね、杏璃ちゃん」
「菜月さんみたいにバリバリ仕事ができるカッコイイ女になりたいので、頑張りましたよー」
あぁ。
せっかく可愛い事を言ってくれているのに、杏璃ちゃんの背後にチラつく2人の姿が気になってたまらない。
「樋口さん、違いますよ。ここをクリックして下さい」
「ここ?」
「んーと、ここです!」
江名が聡君にグイッとくっついた。
もう、止めてよ。
思わず、目を逸した。
「………菜月さん、大丈夫ですか?」
「何が?」
「あの…樋口課長の事…」
杏璃ちゃんがこの上なく言いづらそうに言葉を選ぶ。
そうだよね。
そう見えるよね。
だけど、その同情が今の私には屈辱だ。
『元カレの樋口課長と、現在の彼女の江名さんがイチャついてますけど、フラれた菜月さんはこの場にいて耐えられるんですか?』
こんな目で、社員に見られている気がする。
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