失恋した人の気持ち

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外はまだ寒いけれど、通勤時にすれ違う人の服装が少しずつ明るくなっている事に気がついた。 駅出口を目指す人の流れに身を任せながら、私と同じように仕事に行きたくない人はどれくらいいるんだろう……なんて思っていた。 どんなに行きたくなくても、仕事に穴をあけるわけにはいかない。 また今日も、高層ビルに吸い込まれていく。 「おはようございます」 すれ違う社員達に挨拶しながら、社内カフェへと歩く。 経済新聞やビジネス本、雑誌もファッションから業界誌など豊富に置いてあり、そして月曜と木曜は人気店のパンが入荷する為、利用する社員は多い。 サンドイッチやサラダ、スムージーなども充実していて、社員の健康と美を手助けしてくれる会社には心から感謝している。 カフェに辿り着くと、社員が数人並んでいたので、行列の最後尾についた。 「おはよう」 背後からの声に、はっとして振り返る。 いつの間にか、聡君が後ろに並んでいた。 さっきまでぼんやりしていたのに、急に目が覚めたかのように血が巡りだす。 それくらい、鼓動が早くなった。 「おはようございます」 なんでもない顔をして笑って、挨拶を返した。 うまく笑えてるよね。 分かってる。 平気なフリをするのは、得意だから。 「……珍しいですね。ここに来るなんて」 「あぁ、うん。今日、何かと打ち合わせが入ってるじゃない? もう一度資料を確認しておきたくて早く出社したんだけど、一息ついたらコーヒー飲みたくなって」 聡君が「列、進んだよ」と言ったから、少しだけ前進すると、動いた事でふわりといい香りが漂ってきた。 あぁ、この香り。 聡君は、我社のメンズブランドのフレグランスを気に入っていて、ずっと愛用している。 彼がブランドの立ち上げから携わり、とても思い入れがあるのだと言っていた。 ──これをつけてたら、初心を忘れないんだよ。 ほのかに香るシトラスに、聡君との些細な思い出が蘇る。
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