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「ちゃんと反応してくれるんだ」
髪の毛をタオルで拭きながら、篠宮の隣に座る。
私の方を向いた彼の瞳は、好きなものを見つけた少年のように、またキラキラと輝いていた。
「GENICはカラーの見せ方が上手いから、つい見ちゃうんだよね」
「へぇ…嬉しい」
「今回は"強くてかっこいい"とは違うGENICだけど、ポジティブなインパクトがあるよな。印象に残らないと意味がないし」
篠宮に褒められて、更にほくほくした気持ちになった私は、口元が緩むのを抑えられなかった。
「"特別な私"になる為に、コスメを選んだり、メイクをしたりするのって、ただ単純に楽しいと思うんだ。
私達はもちろん商品を売るために戦略を考えてるけど、"美しくなりたい"っていう気持ちを応援したいんだよね」
「だから、今回は笑顔が多いんだ」
「そう。楽しいっていうシンプルな気持ちを表現したかったから」
ソファーに深く持たれかけて、ふぅと天井を見る。
「メイクをするって、自信が持てたり、明るい気持ちになったり…。
それに、新しいコスメを使う時はワクワクするんだよね。
そんな小さな幸せ作りや、自分を好きになるお手伝いをしたいと思って入社したんだ」
「知ってる」
「え?」
「新人研修の時に言ってた」
「うそ、覚えてた?」
「うん。違った自分を演じているのかなーって思ってた」
え?
目を丸くした私を見て、篠宮はハハッと笑うと、私の首に掛けてあるタオルに手を掛ける。
「その時から気づいてたの?」
「まぁ、なんとなく」
そうだったんだ…。
失恋して、傷ついて屋上で叫んでる私を見て、放っておく事もできたのにワインバルへ行ったのは、やっぱり篠宮の優しさだったんだよね。
「……弱さとか、駄目な自分を見せたら幻滅されるんじゃないかって思ってたから、篠宮とワインバルに行った時の事は、私にとって大きかったな。我慢してた自分の気持ちを曝け出せたって言うか…」
私の頭をタオルで包み込んで、濡れた髪の毛を拭いてくれる彼と、ワインバルでの号泣事件を思い出し、顔を見合わせて笑う。
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