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「菜月さんって、本当にすごいですよね。
仕事も滅多にミスしないし、次々とアイデア浮かぶし、形にする実行力もあるし」
先週の失態を心の中で嘆いているとは知らない杏璃ちゃんは、目をキラキラさせて私を見る。
「そんな事ないよ」
「私も菜月さんみたいなカッコイイ女性になりたいなぁ」
明るい杏璃ちゃんは「頑張るぞー」なんて言って、ガッツポーズをしている。
「………」
私は……杏璃ちゃんや江名みたいに、素直で可愛い女性に憧れる。
さっきみたいに嬉しい時は「嬉しい」って口に出すし、悲しい時は「聞いて下さい」なんて言って、メソメソと泣く事もあった。
人前で泣く事を批判する人もいるけれど、私は泣ける事がすごいと思ってしまった。
そして、ありのままの感情を晒せる事が、ある意味羨ましいと思う。
オフィスの掲示板にずらりと貼られた、商品ポスターの前を通り過ぎる。
GENICのポスターは、ジェニーの美しいビジュアルに「自分らしく、美しく」のキャッチコピーが、一際目を引いた。
携わっていながらも、時に思う。
自分らしさって、何だろうと。
昔から、私はありのままで過ごしているだけなのに「見た目と中身が違うね」と言われる度に、がっかりされているようで悲しかった。
いつの間にか「自分らしさ」じゃなくて、他人からの「あなたらしさ」に重きを置いてきたように思う。
がっかりさせないように。
幻滅されないように。
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