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「俺も屋上行こうかな」
「じゃあ、帰る」
「なんだよ、つれないヤツ」
ひっぱたかれたにも関わらず、平然としている篠宮。
篠宮にとって、さっきの女性は遊びの1人でも、振られた方はすごく傷つく。
だけど傷つけた方は、こんなものなんだ。
「………ねぇ。篠宮って本当に人を好きになった事あるの?」
「うーん。ないかも」
やっぱりね。
突然振られた身としては、さっきの女性の気持ちが痛いほど分かり、いたたまれない。
「だから人の気持ちなんて分からないんだろうね」
八つ当たりしてしまった。
篠宮に言っても仕方のない事なのに。
だけど、言わずにはいられなかった。
「私、仕事に戻るから。アンタも……」
体の向きを元来た方へ向けると、
ドンッ─っと、壁に手を付き行く手を阻まれた。
視界の先には、篠宮の腕。
「…………え?」
いわゆる"壁ドン"の形になった状況に理解が追いつかず、篠宮の方へ顔を向けると、何かを企むように口の端を上げた。
「じゃあさ、及川が教えてよ」
「何を?」
「失恋した人の気持ちとやらを」
はぁーーー?!
何だその提案?
「何で私が?」
「だって俺、失恋した事ないし」
なんと!
どこまでも嫌なヤツ!!!
「教えてくれたら、人の気持ちを考えれるかもなー」
「ほか当たって。篠宮なら山ほどいるでしょ。だいたいそんな事教えてもらわないと分からないなんて、人としてどうなのよ!」
「口止め料」
「え?」
「今から仕事戻って、こないだ及川が仕事サボって"お前らが死ねー!"って、未練タラタラで叫んでたって言ってもいいんだけどね?」
…………は?
笑って脅す篠宮に、ぽかんと口が開く。
そして同時に「可哀想ね」って、また陰で社員に言われる光景が目に浮かび、ゾッとした。
最悪だ……。
最悪なヤツに絡まれてしまった。
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