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「篠宮は、今日は飲まないの?」
「飲むよ」
「飲酒運転になるでしょ」
「世の中にはね、運転代行というものがあるんですよ。及川さん」
いつものように下らなさすぎる話をしていると、お目当ての店はわりと近かったようで、あっという間に到着した。
駐車場へ車を預け、2人並んで店まで歩く道中、通行人からの視線で、篠宮が目立ちまくっているのをヒシヒシと感じた。
やっぱり、そうよね。
私から見ると篠宮は掴みどころのない、変な男だけど、世間から見ると格好いい男なんだよね。
私は篠宮と出会って10年経つけれど、こうして2人で食事に行くのは初めてだし、同じ部署で1年間だけ働いたけど、担当エリアは違ったし、同期といってもたまに開かれる飲み会で話すくらい。
「ここね」
黒を基調としたオシャレな外観。
格子状のガラスからは、オレンジ色の照明の光が漏れて、新しさと懐かしさが混在する空間に「雰囲気いいね」と、思わず言ってしまった。
個室に案内され、篠宮の対面に座ると、なんだか不思議な気持ちになる。
全く知らない仲でもないけれど、お互い深い話しなんてする仲でも無い篠宮と、ここにいる事に違和感しかない。
「まぁ、飲もうぜ」
「うん…」
口止め料と言ったって、こいつの目的はなんなんだろう。
本当に失恋した人の気持ちが知りたいだけなんだろうか……。
よく分からない。
分からないけど、本心は言いたくない!
また情けない所を見られたくないし、弱みを握られたくない。
メニューを渡されたけど、疑心暗鬼で心ここにあらずだ。
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