大人だから

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「及川さん、お忙しい所すみません」 私の名前を呼ぶ高い声に、体中ゾワッと嫌悪感が走る。 振り返ると、江名がニコリと笑った。 「新システムのインストールを順番にさせて頂くんですが、及川さんは15日の14時からで大丈夫ですか?」 華奢で、顔もお人形さんみたいに可愛くて、コミュニケーション能力抜群。 そんな華やかな外見とは逆に、理系出身でシステム開発に携わり、バリバリ仕事が出来る所もいいギャップで。 この子が、今は聡君に愛される恋人。 「大丈夫です」 「30分くらいシステム触れないんですけど、すみません。よろしくお願いします」 張り裂けそうな心を隠して、私は笑う。 クリっとした丸い目。 お肌もツルツル。 聡君が、若くて可愛くて魅力だらけの江名に惹かれるのも…………。 認めたくないけれど、分かるんだ。 「及川さん」 「はい?」 「今、つけてる口紅って、GENICのディープラズベリーですよね?」 「そうですけど…」 何……? キラキラした目で私を見る江名に、身構えて表情が固くなる。 「やっぱり! その色、美人しか似合わないから、私達の間じゃ"美人色"って言ってるんですよー。及川さんは美人だから似合いますね!」 キャッキャッとはしゃぐ江名の言葉に、膝に置いたままの手をぎゅっと握った。 「ありがとう」 彼女に、私はどう見えているんだろう。 もう聡君に未練などなくて、余裕の笑みを浮かべているように見えているんだろうか。 そう見えているなら、それでいい。 私を守る方法は、強がる事でしかない。
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