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「聞いたよ及川。樋口君と別れたんだって?」
打ち合わせが長引き、少し遅れて昼休憩を取ろうと社内カフェへ歩いていると、ブランド事業部統括部長の関谷さんに声を掛けられた。
御年○歳なのに、神々しい美しさを放ち、数々の改革を行ってきた故に、”フィールの女帝"と呼ばれる関谷さん。
キレイに整えられた前下がりのボブヘアーに、シンプルなグレージュのネイル。
そして今日は、鮮やかなブルーのワンピースを着ている。
数年間、部下として同じ部署で働いた事から、色々と気にかけてくれ、こうして会うと声をかけてくれる。
「しかもあの江名でしょ?意外だわー。
及川と真逆だね」
「そうですね…」
「まぁ、私らは強くて1人で生きていけると思われてるからね」
関谷さんが苦笑いする。
「実際、生きていけますけどね」
おいおい、どの口が言ってるんだ。
死にそうなくらい痛めつけられてるのに、プライドの高さはそう簡単に直りそうにない。
鉄壁の笑顔を貼り付ける私に「これからお昼行くんでしょ?久しぶりに一緒に食べない?」と言われ、思いがけず関谷さんと昼食を共にする事になった。
社内カフェに突如現れた女帝に、背筋を正して挨拶をする社員。
そんな社員にも気さくに声をかけ「しっかり頼むわよー」と豪快に笑ったり、またここぞとばかりに「関谷さん!」と次々と社員に捕まり、私の待つテーブルへ関谷さんが来たのは15分後だった。
「ごめんごめん、お待たせ!」
「先に頂いてます」
「いーよ、いーよ」
いただきまーすと言って、関谷さんはプレートランチに箸をつける。
「でさ、さっきの話しなんだけど」
「はい」
「及川はもっと心に土足で入ってくるタイプがいいかもね」
聡君の事を根掘り葉掘り聞かれると思っていたのに、唐突すぎてきょとんとなる。
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