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「よく他に目を向けろとか、前向きになれとか言われるけど、心が回復しないと無理なのよねー」
「そうなんです!そんな気力もなくて……」
まるで沼に嵌っているようだ。
未練という鎖に足を取られて動けない。
どう動いていいのかも分からない。
「時にはさ、癒やしてくれる人が必要よね」
本当に。
傷を癒やすのは薬だ。
自然に治らないものは、薬を塗るしかない。
「文香によく愚痴聞いてもらってます」
「川田と相変わらず仲いいね。
異性はいないの?鎮痛剤的な役割の人」
篠宮の顔がまた浮かぶ。
正直、あの日篠宮が私の傷を埋めた事は認めざるを得ない。
……いやいや。
アイツは鎮痛剤というか、どちらかというと下剤のような気がする。
痛みを与え、排出させて治す的な。
「いませんよ」
「そうなんだ」
「……いたら何か違いますか?」
篠宮は違うけれども、一応関谷さんに聞いてみる。
「だって及川が弱さを見せる事が出来るなんて、心を開いてる証拠でしょ?」
それは……そうだ。
いや、違う?
私が心を見せたのは、篠宮の作戦にまんまとハマってしまったからで…。
「恋愛相談する異性がなぜ恋に落ちやすいか分かる?」
「わかりません」
「私のこと分かってくれてるような気持ちになる、励ましてくれて頼りになる、傷を癒やしてくれる。ほら、恋に落ちる要素がありすぎるでしょ?」
「…まやかしですね」
「そうでもないでしょ?」
え?
「そこから発展する場合もあれば、もちろんそうじゃない場合もある。
人の縁なんて分からないものよね」
それは……そうだ。
さっきからこの言葉ばかり言っている。
私もまさか篠宮の前で泣くとは思わなかった。
誰でも良かった訳じゃないと思うけれど、でも…
「あ、篠宮だ」
「え!!!」
関谷さんの声に、心の中が読まれたのかと思わず声をあげてしまったが、視線の先を辿ると、篠宮と制作会社の人達がカフェに入って来た所だった。
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