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「ほとんどの人が勘違いしてるのに、どうして?」
関谷さんが興味津々に聞く。
「新入社員研修の時、たまたまグループが一緒で、隣の席に座ったんですけど、人一倍熱心に聞いてました。ノートは製品知識びっしりで……」
連日の研修で頭がパンクしそうになり、ついうたた寝していた私とは違い、隣の篠宮はこと細かく説明を聞いては書いて、ノートは真っ黒だった。
「引きました……」
「見習うべき所でしょーが」
「篠宮が陰で努力してるのは、ほとんどの人は知らないでしょうね。あんな調子ですし、世渡りのうまいヤツと思ってる人もいると思いますよ」
営業時代。
新しい商品が出る度に、どの社員よりも詳しく伝える事ができるのは、陰で努力してるからなんだよなー、とあの真っ黒のノートを見ている私は思っていた。
「篠宮って、"こういう風にしたら売上が伸びるんじゃないか"、"こうしていけばお客様に喜んでもらえるんじゃないか"とか、色んな方向から物事を見てるんですよね。ただの理想論じゃなくて、建設的な提案をするんです。口だけの人や、やり遂げる事が出来ない人もいる中、実行する力もあるし…」
はっきり言って、既存のものを変えていくのは相当パワーがいる事だ。
従来通りにした方が、楽な事は多々ある。
だけど篠宮がこうして努力するのは、すべては相手のニーズに寄り添う為で、常に自分の引き出しに沢山の情報を入れて、相手の求めるものにより多く応えるようにしているんだと思う。
自分が大変になると、多くの人は"利己的"な判断基準になるけれど、篠宮はいつも"利他的"で、そういう仕事に対しての姿勢は秘かに尊敬している。
「負けず嫌いですよね。篠宮って。
人に負けたくないんじゃなくて、自分に負けるのが嫌なんだろうと思います」
関谷さんがアハハと笑う。
「アイツは、顔だけでって言われるのがイヤだから誰も文句がつけられないくらい結果を出すのよ。
まぁ、女の子にも手を出すけどね」
「結果が伴ってるんだか、伴ってないんだか……」
苦笑いしながら、箸を置いた。
関谷さんの言う通り、営業時代「篠宮は顔だけで仕事取ってる」って、よく耳にした。
確かに、あのビジュアルだから得をしてる部分はあると思うけれど、ビジネスの世界なんて見た目だけがものを言う世界ではないのだ。
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