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目で訴える事しかできない私。
静かになったオフィスで見つめ合う私達の間に流れたのは、元恋人同士の空気。
「…そろそろ、タイムリミットになるね。
続きは、また明日にしようか」
この空気を壊したのは、やっぱり聡君だった。
もう見込みなんてないと、やんわりと拒否されているようで傷つく。
聡君は立ち上がり「20時までだからね」と笑うと、自分の席へと戻った。
……仕方のない事。
職場だし、江名という彼女がいるし、一線を引かれるのは当然の事。
一方的に、一線を引かれるばかりで……。
ぐっと唇を噛み締めた。
聡君に近づいたと思えば、傷つけられる。
近づかなくても、悲しくなる。
フラレた方は、気持ちに蓋をして、何もできずに時間が過ぎるのを待つばかり。
仕事に身も入る事なく20時になり、パソコンをシャットダウンした。
「お疲れ様でした。課長はまだ帰らないんですか?」
そんなジレンマを抱えながらも、結局は聡君と普通に過ごす時間を失う方が辛い。
どこまでも女々しい自分に、情けなくなってくる。
「あぁ…もう少ししたら帰るよ」
ニコッと笑ったけれど、私と一緒じゃなくて、時間をズラして帰りたいんだと思った。
気まずいもんね。
「……それではお先に失礼します」
「遅くまでお疲れ様」
私は、もう一度恋人同士に戻りたい。
だけどきっと、聡君はもう一度、普通の上司と部下に戻りたいんだろう。
笑って挨拶して別れたけれど、重なる事のない思いに悲しくなった。
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