女帝の格言

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残業をして、一緒に帰っていた頃の思い出が溢れんばかりに蘇る。 あの頃は…幸せだった。 一緒に夕食を食べに行って、聡君の家にそのまま泊まって。 トボトボと人通りのない廊下を歩いていると「お疲れ様でした」と、声をかけられた。 ズキン、と一瞬で心に激痛が走るような感覚がした。 視線を上げると、江名がニコッと会釈をして通り過ぎた。 あ………。 思わず、足が止まってしまった。 振り返ってはいけない。 見なければ傷つかない。 そのまま歩いて、帰るのよ。 江名が何処へ行くのか、見当はついてるじゃない。 だけど………っ! ゆっくりと振り返ると、聡君の残るオフィスへと、江名が吸い込まれて行くのが見えた。 「ハハ…」 傷つくと分かっていながらも確かめてしまった自分に、呆れて乾いた笑いが出る。 江名と一緒に帰る約束があったから、帰らなかったんだ。 私といるのが気まずいとか、そういう問題ではなく、単なる江名の為。 これ以上考えると虚しさに埋めつくされそうで、抗うようにエレベーターまで無我夢中で歩いた。 バンッと力いっぱいエレベーターのボタンを押すと、ちょうどタイミングよくポーンと到着した音が鳴った。 「あれ?お疲れ」 静かに扉が開くと、篠宮がエレベーターに乗っていた。
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