大人だから

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背後では、江名が社員と話している声がする。 聡君と、江名と、社員の目と。 ここにいると、針で体中を刺されているような気持ちになる。 「少し早いですけど、いってきます」 「あぁ、いってらっしゃい」 いつも通りに笑って。 誰から見ても、何の変化もないように振る舞って。 総務に行くなんて嘘。 オフィスから逃げ出すと、そのままトイレへと駆け込んだ。 誰の目からも遮断された個室に入ると、はぁ…っと大きく息を吐いた。 江名が聡君の元へ来る度に、私には同情の目が向けられ、そして2人から溢れだす甘い空気を感じなければいけない。 好きな人が誰かを思う姿なんて、見たくないのに………。 拷問だ。 「ごめんごめん、今から外出るからメイク直させて」 「ったく、イケメン担当者と会うからって、気合い入りすぎでしょ」 ん? バタンと扉が開く音と、話し声が同時に聞こえ、誰かがトイレに入って来た事が分かった。 あの声は、さっきうちの部署に来てたマーケティング部の2人。 こういう時、出て行くタイミングを躊躇ってしまう。 嫌だなぁ。 「しかしさー、さっきはハラハラしたよね。いつ修羅場になるかと思ったよ」 「ほんと。及川さん、可哀想だよね」 え?私? 自分の名前が出た事で、心臓がじくりと嫌な音をたてた。
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