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「……お疲れ」
うまく笑えなかった。
「残業?忙しいんだ?」
「まぁまぁ…」
曖昧な返事をしながら、篠宮の隣へと並ぶ。
特に会話もなく、ゆっくりと下りていくエレベーターに身を任す。
片手でスマホを触っている篠宮を横目で見ながら、関谷さんの言葉を思い出していた。
鎮痛剤か……。
あぁ、分かるなぁ。
惨めな夜を塗り替えたい。
「篠宮、ヒマ?」
つい、声をかけてしまった。
「今から予定あり」
「女?」
「まぁね」
あぁ、そうですか…。
お盛んなやつ。
どうしようかな。
文香はもう家だろうし、1人で飲みに行っても虚しくなるだけだし…。
「何?」
「ううん。なんでもない」
ちょうどエレベーターが1階へ到着し、二人揃って降りた。
「いや、何かあるから呼び止めたんだろ?言えよ」
歩きながら、篠宮が呆れたように笑う。
エントランスを出ると、少しだけ気温の緩んだ夜風が肌に触れる。
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