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「まぁ、だけど。
変わらないものなんてないから、いつか気持ちも変わるんじゃない?」
篠宮がサラッと刺身を食べながら言う。
「いつかっていつ?!」
「しらねーよ。
明日かもしれないし、半年後かもしれないし、10年後かもしれないし」
10 年 後
「絶望…」
「樋口さんの気持ちが変わるのか、江名ちゃんなのか、お前の気持ちが変わるのか、それは分からないじゃん」
ん?
「……私?こんなに好きなのに?」
「うん。別の人を好きになるかもよ?」
頬杖をつくと、ニヤッと笑った。
「いや、無いわ……。
遊びにも行く気力もなくて、家と職場の往復で出会いもないし…。ましてや職場恋愛なんて二度としない!!」
ここまで打ちのめされる職場恋愛なんて、もうコリゴリだ。
力いっぱい宣言すると、篠宮は「ふーん」と、いつものごとく何を考えているのか分からない反応をした。
「……こないだ関谷さんに言われたんだけどさ。
私みたいな女に寄ってくるのは、自分に自信のある男か、変わり者くらいしかいないんだって」
「さすが女帝」
クックッと篠宮が笑う。
「隙がないからだろ?」
「……隙?」
「誰も寄せ付けません!って、固く閉した扉の前に、さらに門番までいる感じだね、及川は」
「だからそれは…っ!
イメージが違うとガッカリされてきたし、弱いとダメな人間だと思われそうで……私なりに努力してきたからなのに!」
くそーっ!
ヤケクソでビールをグビグビ飲む。
だけど、篠宮の言っている事は悔しいけどよく分かる。
「……江名は、コンコンってノックしやすいよね。分かる。すぐに心の扉を開けてくれそうだもん」
いつもニコニコして、可愛らしくて。
人との距離が近い江名に、気軽に声をかけやすいのは、客観的に見ても納得だ。
また自分との違いを思い知らされ、がっくりと項垂れる。
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