女帝の格言

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「門番にお暇を出して、空き巣に入られるくらいの門扉にしなくちゃいけないのね…」 「それはそれでマズイだろ」 篠宮がビールを吹き出しそうになっている。 「というか、お前は知れば知るほど "おいおい、大丈夫か?"って思うよね」 「は?」 「心配になる」 ………それって、どういう意味? 篠宮は笑いながら、至って普通の事みたいにサラリと言ったけれど、私にとってはけっこうな衝撃だった。 「隙だらけって事?」 「逆に聞くけど、ちゃんとしてると思ってんの?」 してません。 篠宮の前では情けない所しか見せてないです。 ぐぬぬ、と反論できない私を見て、また勝ち誇ったように口角を上げる。 「自分の事が少しは分かった?」 「はぁ…」 「あ、ビール頼むけど、お前は何飲む?」 「あぁ、えっと…ワインに変えようかなぁ」 好きだねー、なんてワインの話になったから、さっきの話題は流れてしまった。 ………なんだろう。 なんだか、嬉しい。 私も隙のある可愛い女だと言われたようで。 残りのビールをチビチビと飲みながら、店員に注文している篠宮の横顔を見ていた。 人は、弱いのだ。 よく巷で言われるように、男で出来た傷は、男じゃないと埋めれないものがあるのかもしれない。 コイツとどうこうではないけれど、イケメンで、話も上手くて、私の裏側も知ってる篠宮は、傷を埋めてくれるお手軽な相手なんだ…、なんて整った顔を見ながら思った。 私はダメじゃないって。 打ちのめされて、干からびそうな女子力とやらを懸命に保つ為に。 「何?」 じっと見ていたから、パチリと篠宮と目が合った。 「アンタって、本当に無駄にイケメンだよね」 「無駄は余計だろ」 下らない話で笑って、少しだけときめきを補充して。 失恋の傷を癒やすには、そんな時間も必要なのかもしれない。
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