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「何?」
「笑ったら可愛いのになぁ」
えっ!!
まじまじと見つめられて、恥ずかしくなって目を逸した。
「残念でごめんなさいね」
可愛いと言われ慣れてない私は、照れ隠しから、思わず"クール及川"を発動してしまった。
この人、本当にサラッと爆弾発言するのよね!
こうしてまた、私の心に篠宮の言葉が刻まれるのだ。
「及川さんはもっと自分の事を客観視して下さいね」
「惨めなアラサーだと言われてる事も知ってるよ」
「まぁ、いいや」
篠宮は諦めたようにフッと笑って、前を向いた。
トクン、トクンと胸が鳴る。
不覚にもときめいてしまった心を隠して、またしょうもない会話を繰り広げていると、駅についた。
「私、こっちだから。
今日はありがとね」
篠宮とはホームが違う為、別れ道で立ち止まる。
「口止め料と貸しイチ、忘れないで下さいね」
「念を押すな」
「色々黙っておいてあげるかわりに、どんな言う事聞いてもらおっかなー」
何を企んでいるのだろう……。
篠宮はゴキゲンな様子で、不敵な笑みを浮かべる。
「じゃあな」
「あ…うん!おやすみ」
いつものように軽い口調でホテルにでも連れ込まれるのかと思ったけど、アッサリ別れた。
ま、同期だしね。
私をそんな風に見てないって、最初に言ってたし。
──時にはさ、癒やしてくれる人が必要よね
去って行く篠宮の後姿を見ながら、関谷さんの言葉が染み込んで行く。
イケメン。
楽しい会話。
ときめき。
惨めな夜を思った以上に塗り替えてくれたのは、篠宮だった。
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