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言葉をぐっと飲み込む私を見つめたまま、篠宮は口角を上げる。
「壱哉って言ってみ?」
「イヤっ!!」
「これ、貸しイチの分だけど?」
ぐっ……!!
悔しいぃぃぃ!
「いち、壱哉……」
ぎゃーーー!死ぬ!!!
思わず顔を両手で覆い隠して、目一杯体を折り曲げた。
篠宮が堪えきれずに、クックッと笑う声が聞こえる。
「私になんの恨みがあるの……」
「いや、面白くて」
むくりと顔を上げると、やっぱり篠宮は肩を震わせて笑っていた。
ドSに違いない。
「じゃ、今日は恋人ごっこって事で。
期待してますよ、及川さん」
「何を?!」
「まぁまぁ。よろしく、なっちゃん」
ニヤッと勝ち誇った顔で笑うと、車を発進させる。
あぁ…また負けてしまった。
カーンと寂しく、敗北のゴングが心の中で鳴る。
いや、そもそも私が篠宮に勝てた事なんて一度もなかったわ……。
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