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イベントと花の金曜日のせいで、近くの駐車場はどこも空いていなくて、百貨店からは少し離れた駐車場から歩く事となった。
ファッショニスタに付き合えなんて想像もしてなかったし、こんなに歩くと思わないから、普通にヒールだと歩きづらい。
「篠宮」
「名前」
「ちっ!壱哉!」
「なーに?なっちゃん」
なんなんだ、この茶番は。
「もうちょっとユックリ歩いて。わりと高めのヒール履いてきちゃったから」
「あ、わりぃ」
篠宮の腕をツンと引っ張り、見上げる。
ヒールを履いた私は170越えの大女だが、それでも私より背が高い篠宮は、やっぱりビジュアルだけはいい男だ、なんて。
スピードを落とした篠宮の隣で秘かに思った。
「まさかファッショニスタに行くとは思わなかった」
数ヶ月前までは、よく百貨店にショッピングに行ったり、コスメブランドを回ったり、時間がある時はファッションイベントにも足を運んでいた。
憂鬱な気持ちで毎日過ごしていたから、しばらくこんな事してなかったな……。
人でごった返す交差点を歩きながら、久々の感覚に、動いていなかった心がワクワクと少し揺れるのが分かった。
「ホテルにでも連れ込まれると思ってた?」
人の感傷返せ。
「あんたね…」
「ホテル街はあっちだねー」
氷のような視線を送るも、飄々と冗談を言う篠宮の腕をパシッと叩くと、その手を掴まれた。
──は?
手を繋いだ形となり、ぽかんと口が開く。
重なる手から篠宮の温度が流れてきて、驚きのあまり顔を上げると、悪戯っぽい笑みを浮かべた篠宮と目が合った。
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