色とりどりの世界

9/16
前へ
/283ページ
次へ
イベントと花の金曜日のせいで、近くの駐車場はどこも空いていなくて、百貨店からは少し離れた駐車場から歩く事となった。 ファッショニスタに付き合えなんて想像もしてなかったし、こんなに歩くと思わないから、普通にヒールだと歩きづらい。 「篠宮」 「名前」 「ちっ!壱哉!」 「なーに?なっちゃん」 なんなんだ、この茶番は。 「もうちょっとユックリ歩いて。わりと高めのヒール履いてきちゃったから」 「あ、わりぃ」 篠宮の腕をツンと引っ張り、見上げる。 ヒールを履いた私は170越えの大女だが、それでも私より背が高い篠宮は、やっぱりビジュアルだけはいい男だ、なんて。 スピードを落とした篠宮の隣で秘かに思った。 「まさかファッショニスタに行くとは思わなかった」 数ヶ月前までは、よく百貨店にショッピングに行ったり、コスメブランドを回ったり、時間がある時はファッションイベントにも足を運んでいた。 憂鬱な気持ちで毎日過ごしていたから、しばらくこんな事してなかったな……。 人でごった返す交差点を歩きながら、久々の感覚に、動いていなかった心がワクワクと少し揺れるのが分かった。 「ホテルにでも連れ込まれると思ってた?」 人の感傷返せ。 「あんたね…」 「ホテル街はあっちだねー」 氷のような視線を送るも、飄々と冗談を言う篠宮の腕をパシッと叩くと、その手を掴まれた。 ──は? 手を繋いだ形となり、ぽかんと口が開く。 重なる手から篠宮の温度が流れてきて、驚きのあまり顔を上げると、悪戯っぽい笑みを浮かべた篠宮と目が合った。
/283ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4318人が本棚に入れています
本棚に追加