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もう、いいか。
どうせ、篠宮にはいつも言いくるめられるんだ。
大人しくなった私に視線を落とした篠宮が、フッと顔を緩ませた。
とまどいながらも、手を引かれるままに流れに身を任せてみようか、なんて気持ちになってしまう。
こんなに騒がしい街中なのに、力を抜いて歩くと、なんだか流れる空気が穏やかになった気がした。
「こんばんはー!ようこそ!」
素晴らしい笑顔のお姉さんに、ファッショニスタの入口で迎えられる。
カップル観覧席への説明、百貨店内のイベントのパンフレットと、色々とサンプルを貰うと、繋いでいた手は自然と離れた。
「お二人、美男美女ですごくお似合いのカップルですね!」
ハハハ…と苦笑いする私の横で、篠宮は「お姉さんも可愛いですよ」なんて言ってニコッと笑うもんだから、笑顔を向けられたお姉さんは目がハートになっていた。
「見境ない男」
「ん?」
「お姉さん、目がハートになってたよ」
「やきもちやくなよ」
反論しようとする私に先手を打つように「はいはい、ごめんね」と言って、また手を握られた。
「…もう中へ入れたからいいんじゃないの?」
「はぐれたら困るし」
「………」
人の群れをかき分けながら、私の手を引いて歩く篠宮。
その背中を見ながら、守られているようで嬉しいと感じてしまう。
なんだか私は、弱くて可愛い女だと勘違いしそうになる。
また、そんな気持ちにさせる。
ひしめき合う群衆は、若い世代ばかりかと思っていたけれど、老若男女さまざまで、多くのカップルが仲良く手を繋いでファッションショーを見ている様は異質でもあり、だけど心が和むものだった。
きっと、目が輝いているからだろうな。
年齢なんて関係なくて、いくつになっても心を弾ませる出来事と出会えるのは、幸せな事だ。
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