色とりどりの世界

11/16
前へ
/283ページ
次へ
もう、いいか。 どうせ、篠宮にはいつも言いくるめられるんだ。 大人しくなった私に視線を落とした篠宮が、フッと顔を緩ませた。 とまどいながらも、手を引かれるままに流れに身を任せてみようか、なんて気持ちになってしまう。 こんなに騒がしい街中なのに、力を抜いて歩くと、なんだか流れる空気が穏やかになった気がした。 「こんばんはー!ようこそ!」 素晴らしい笑顔のお姉さんに、ファッショニスタの入口で迎えられる。 カップル観覧席への説明、百貨店内のイベントのパンフレットと、色々とサンプルを貰うと、繋いでいた手は自然と離れた。 「お二人、美男美女ですごくお似合いのカップルですね!」 ハハハ…と苦笑いする私の横で、篠宮は「お姉さんも可愛いですよ」なんて言ってニコッと笑うもんだから、笑顔を向けられたお姉さんは目がハートになっていた。 「見境ない男」 「ん?」 「お姉さん、目がハートになってたよ」 「やきもちやくなよ」 反論しようとする私に先手を打つように「はいはい、ごめんね」と言って、また手を握られた。 「…もう中へ入れたからいいんじゃないの?」 「はぐれたら困るし」 「………」 人の群れをかき分けながら、私の手を引いて歩く篠宮。 その背中を見ながら、守られているようで嬉しいと感じてしまう。 なんだか私は、弱くて可愛い女だと勘違いしそうになる。 また、そんな気持ちにさせる。 ひしめき合う群衆は、若い世代ばかりかと思っていたけれど、老若男女さまざまで、多くのカップルが仲良く手を繋いでファッションショーを見ている様は異質でもあり、だけど心が和むものだった。 きっと、目が輝いているからだろうな。 年齢なんて関係なくて、いくつになっても心を弾ませる出来事と出会えるのは、幸せな事だ。
/283ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4318人が本棚に入れています
本棚に追加