色とりどりの世界

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途中から参加したファッションショーは、あっという間に終わったけれど、私の心には大きなものが残った。 観客たちが「楽しかったね」なんて言いながら移動していく中、私は手を繋いだまま余韻に浸っていた。 「行こうか?」 篠宮がこっちを向いた。 「うん」 「…どうした?」 動かない私を不思議そうに見る。 「毎日、失恋した悲しさをどう紛らわすかばかりを考えて、生きていた気がする。 私は、こんなに色とりどりの世界で生きてるのにね」 思わず溢れた言葉。 なんだか、篠宮に聞いて欲しかった。 こんな日々、終わりにしたい。 前を向きたい。 真っ暗なんかじゃなくて、今、私の目に映る世界はこんなにも眩しいのに。 「久しぶりに輝くものに触れた気がするよ」 篠宮の方へ顔を向けて笑うと、視線が絡まる。 「心が回復しないと前を向けないんだろ?」 返事をする前に、篠宮は意味有りげに口角を上げると、私の手を引いて歩き出した。 ─俺が慰めてあげようか? ─荒治療だけど 人の流れに飲まれながら、2人で話したあの夜の会話を思い出す。 …全然、荒治療なんかじゃないじゃん。 本当に、掴めないヤツ。 強引だったり、優しかったり。 どうして、私をここに連れて来たの……?
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