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江名が久しぶりにうちの部署に来た。
聡君の所へ来たわけではなく、係長のシステムの調子が悪くて見に来たんだけど、やっぱり心がざわついて平静ではいられない。
だから、私も久しぶりに屋上へと避難している。
空は分厚い雲に覆われて、昼間なのに薄暗い。
灰色の空と、灰色の街。
そんな景色を見ながら、スマホを手に、画面をタップするのを躊躇っている。
"好きだよ"
聡君からの、消せないままのメッセージ。
前を向こうとしているのに、やっぱりこうして引き戻されそうになってしまう。
そもそも、こうして消せないのが未練がある証拠なのだ。
もう忘れる!消す!前を向く!
えーい!とばかりに勢いでタップすると
"全消去しました"とメッセージが出て、スッキリするどころか、ものすごく淋しくなった。
はぁ…、と溜息をついて空を見上げる。
こんなに簡単に気持ちの整理がついたら、世の中苦しむ人なんていなくなるよね。
曇天の空は、私の心のように晴れない。
「またいる」
感傷的になっていると、背後から突然声がした。
この声は………!
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